英語と明治維新　――語学はいかに近代日本を創ったか

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英語教育史の第一人者である江利川春雄氏の、『英語と日本人』に続くちくま新書第二弾。前作が、「日本における英語受容とその教育の歴史」を鳥瞰する、いかにも入門書といった様相の著作だったが、今回は「幕末と明治時代」に時代を絞って――蘭語と仏語と独語にも目を配りつつ――英語が明治維新に与えた影響について考察・解説している。
巷間では「90年代以降グローバル化の波が〜〜」といった言説が多く見受けられるが、そもそも幕末いや大航海時代以降から、既に「グローバル化」は始まっていたわけで、ずっと鎖国体制だった江戸日本は、その世界的な趨勢とは無縁で牧歌的な無風帯に居た。ところが、作者が喝破しているように、その幕末の日本の眠りを覚ます相次ぐ外国船の襲来と、欧米列強による商魂たくましい経済的覇権が、幕末と明治の日本に否応なくglobalizationへの参入・対応を迫ってきたのだ。
そこから話は、当時の歴史的偉人（福沢諭吉・伊藤博文・大隈重信・森有礼ら）が、こうした「英語（もしくは、それが代表する英語圏ひいては近代西洋）」とどのように格闘してきたのかに及ぶ。本書の肝である、この「新しい波に対峙する彼らの苦悩と苦闘」をつぶさに見るにつけ、偉大な先人たちの並々ならぬ努力と取り組みに感謝の念が湧くと同時に、ちょくちょく作者が当時の愚策にツッコミを入れるのに笑いを禁じ得ない（そのユーモラスな突っ込みは大抵、あえて短い文で表現されており、緩急の付け方が絶妙）。
個人的には、江利川氏の単行本『受験英語と日本人』の方が興味深かったし、英独仏蘭以外の言語（ロシア語・ポルトガル語・イタリア語）の受容に関しても軽くで良いので知りたかった（むしろ、何故あえて英語に絞らず、仏語と独語にも触れたのだろう？確かに近代日本は、英独仏のトロイカ体制（by鈴木孝夫）だったとはいえ…）ので、星４つとさせて頂きます。

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英語という黒船：幕末のグローバル化に対応せよ
西洋衝撃と近代日本
異国船の頻繁な来航と通商要求
アヘン戦争の衝撃：大国・清の敗北と半植民地化
蒸気船と鉄製大砲を装備した「黒船」の威力
「異国船打払令」から「薪水給与令」へ：国際協調への一歩
ペリー来航：開国への強い外圧
外交交渉における通訳の重要性と困難さ
英語-オランダ語-日本語の二重通訳
条約批准期限に関する「誤訳」問題と紛争
ハリスも認めた岩瀬忠震の優れた交渉能力
「万国公法」：実態は西洋諸国の利益に貫かれた「西洋標準」
西洋を頂点とする差別的な文明段階説
不平等条約：治外法権と関税自主権の欠如
安価な外国製品流入による国内産業への打撃
「脱亜入欧」思想：アジア蔑視と植民地支配への道
開国による幕府財政基盤の弱体化と諸藩・商人の自立
金の海外流出と激しいインフレ、庶民生活の圧迫
幕府の英語教育と西洋体験：近代化で幕府を延命せよ
長崎：鎖国下唯一の窓、西洋語教育・研究の拠点
横浜英学所：通訳養成を主な任務
江戸・蕃書調所（開成所）：西洋学問研究の拠点
箱館・諸術調所：北方の英学拠点
日本人が英語を学ぶ上での発音の困難さ
西洋政治思想の流入：「共和政治」概念の衝撃
幕府軍の近代化：蘭学から仏学へ、フランス式軍制導入
フランス語教育の必要性（軍事顧問団来日）
幕府の西洋視察団：欧米の技術・制度を学ぶ
パリ万博派遣と渋沢栄一の資本主義経済学習
諸藩の動き：薩摩藩の集成館事業と洋学校「開成所」
薩英戦争後の捕虜経験から西洋技術導入へ（五代、寺島）
長州藩の洋学所「博習堂」と西洋兵学研究（大村益次郎）
長州藩のイギリス式軍制採用と戊辰戦争での戦果
伊藤・井上らの密航留学：西洋の圧倒的な力を肌で感じる
西南諸藩の英語学習：西洋兵学で倒幕軍を作る
薩長同盟とグラバー商会からの武器購入
西洋式訓練を受けた薩長軍の強さ（戊辰戦争）
イギリス・フランス公使の幕末政局への関与
イギリスによる明治政府承認と中立宣言撤回
国民国家（ナショナリズム）形成への道
近代軍制導入と徴兵制：士族特権廃止と身分制解体
明治軍隊における外国語：陸軍フランス語、海軍英語
明治日本の西洋化：近代国家を構想せよ
不平等条約改正への挑戦：「文明開化」による「文明国」アピール
岩倉使節団：西洋視察とビスマルクからの「力の外交」の教訓
お雇い外国人の招致：学術・技術の迅速な移入
教育制度の近代化：学制公布、国民皆学と高等教育重視
中等教育整備の遅れと外国語での授業
札幌農学校：クラーク博士と英語での全授業
伝統学問（漢学・国学）と洋学の派閥争い
殖産興業政策と官営模範工場（富岡製糸場）
西洋衛生思想の導入と脚気対策（高木兼寛 vs 森鴎外）
英語とドイツ語の攻防：近代国家をどの言語で行うか
自由民権運動と英学・仏学の結びつき
政府のドイツ学振興政策：自由民権運動への対抗策
英学の根��断ち切り、ドイツ型国家論・政治思想を普及
保守派の台頭とドイツ流立憲君主制への傾倒
井上毅の提言：教育を民権派から切り離しドイツ学中心へ
教育制度におけるドイツ語重視への転換
ビスマルク思想の影響：弱肉強食と「力の外交」
英語が日本語を変えた：言文一致をめざせ
「言文一致」：話し言葉と書き言葉の一致、日本語の近代化
翻訳による新語彙・表現の大量導入（郵便、銀行、科学、哲学…）
近代的な日本語辞書編纂：西洋辞書学・文法学の影響
大槻文彦『言海』：日本初の近代的国語辞典
統一「国語」の確立と方言撲滅
近代文学の成立：西洋文学との格闘と新文体の練り上げ
坪内逍遥『小説神髄』：近代文学確立への貢献
二葉亭四迷：言文一致体確立の功績者
夏目漱石作品に見る英語ブームと言文一致への試み
フレーズの選定と調整（40個に絞り込み）: 上記候補から、書籍のテーマ、幕末・明治の転換点、英語の役割と影響、重要な出来事や概念をバランス良く選びます。

英語という黒船：幕末のグローバル化と西洋衝撃
アヘン戦争の衝撃と「黒船」の威力が日本を開国へ
「異国船打払令」から「薪水給与令」へ：武力衝突回避の選択
外交交渉：通訳の困難さ、二重通訳、そして条約「誤訳」問題
「万国公法」：西洋中心の差別的文明段階説と不平等条約の押し付け
不平等条約の屈辱：治外法権と関税自主権の欠如
「脱亜入欧」思想：アジア蔑視と日本の侵略イデオロギーのルーツ
開国が招いた経済混乱：金の流出、インフレ、幕府弱体化
幕府・諸藩の英語教育：近代化による体制延命の試み
長崎・横浜・江戸・箱館：幕末の英学拠点
西洋政治思想の流入：「共和政治」概念の衝撃
幕府軍近代化：蘭学から仏学へ、フランス軍事顧問団招聘
渋沢栄一、パリ万博で資本主義経済のメカニズムを学ぶ
薩摩藩：集成館事業、薩英戦争を経て洋学校設立、留学生派遣
長州藩：西洋兵学研究（大村益次郎）、イギリス式軍制採用
伊藤・井上らの密航留学：西洋の圧倒的な力を肌で知る
西洋兵学で武装した薩長同盟軍による倒幕
イギリスの明治政府承認と戊辰戦争への影響
国民国家形成へ：徴兵制導入と士族特権廃止
明治軍隊の言語：陸軍はフランス語、海軍は英語
明治日本の西洋化：不平等条約改正を目指す「文明開化」
岩倉使節団：西洋視察とビスマルクからの「力の外交」の教訓
お雇い外国人：西洋の学術・技術を迅速に移入する切り札
教育制度近代化：学制公布、国民皆学と高等教育重点
札幌農学校：クラーク博士と、全授業を英語で行うリベラル・アーツ教育
伝統学問（漢学・国学）と洋学の激しい派閥争い
西洋衛生思想導入と脚気論争（高木兼寛 vs 森鴎外）
英語とドイツ語の攻防：近代国家の言語選択をめぐる政治闘争
自由民権運動（英学・仏学）に対抗する政府のドイツ学振興
教育におけるドイツ語重視：英学の根を断ち切る意図
英語が日本語を変えた：「言文一致」運動による日本語の革命
翻訳による新語彙の大量導入：社会の変化を映す鏡
近代国語辞書『言海』（大槻文彦）：西洋辞���学の影響
統一「国語」の確立と、方言撲滅という側面
近代文学の成立：西洋文学との格闘から生まれた新文体
坪内逍遥『小説神髄』：近代文学確立への道標
二葉亭四迷：言文一致体確立の功労者
夏目漱石作品に反映された英語ブームと言文一致への試み

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幕末から明治維新、近代国家日本を作っていく歴史を外国語の習得という観点で再考する。
ちょうど自分の興味関心と完全に合致してることもあって、めちゃくちゃ面白かった。
「明治維新」　教科書の上では、黒船来航を契機に鎖国体制が解かれ明治政府が樹立、文明開化によって外国語が盛んに取り入れられました、というようなストーリーで語られるイメージがあるけど、この時代の変遷をつぶさに見ていくと、ペリー来航以前から外国船は日本に来ており、幕府諸藩も欧米文化を取り入れようと外国語を学んでいたことが分かる。当時のエリートたちはみんな英語を学んでいた。体系化された辞書や文法書の類いも無いなかで、列強に対抗する知識を得るツールとして外国語を苦心して学ぶエピソードが豊富で面白い。密航というかたちで留学をしてまで英語を勉強していたとは、本当に頭が下がる。
この時代に急速に欧米語が取り入れられたことにより、良くも悪くも、日本語としての話し言葉・書き言葉や物の考え方そのものにも影響が及んでいく。そしてそれは現代を生きる我々にも地続きの問題となり得る。歴史のスケールの大きさ、奥深さを感じる。