死の瞬間　人はなぜ好奇心を抱くのか

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死について著者の経験やカルチャーなど様々な視点からその輪郭について紐解いていく本。
重すぎず、ときにユーモアを交えて死について語られていく。
死というのは結局現象でしかなく、それをどう捉えていくのかは生きた人間なのだが、いつか自分にも訪れる、或いは他者の死についてどのような距離感を持つべきなのか考えるヒントや材料になるような示唆に富んでいる。
春日先生の書く文章は楽しいので読み物として面白い。

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死の瞬間、死後の世界、死との対面というものに我々はどう接するのかを論じる。小説・漫画・映画のワンシーンを交え語られる考察は死というテーマでありながら面白い。人間の根源ともいえる感情に迫るダークなカルチャーガイドだ。

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死の瞬間は見逃されてしまうという話と、ある患者が息を引き取るときに漏らした「あー」という声がまるで湯に浸かったときに自然と出てしまう声のようだったという話がよかった。

著者がこれまで読み、見てきた多くの小説や映画から死について考察されるけれども、それよりも医師として患者と接してきた経験談の方に面白みを覚えた。去年読んだ『自殺帳』もそうだった。

自分、たまに深夜にふと目が覚めると自分がいつか死ぬってことを意識して猛烈な恐怖に襲われるのだが、この恐怖はたぶん存在の消滅に一人きりで対処することの孤独や寂しさに由来している、と思っている。この気持ちについて何か教示してもらえるかと思い本書を読んだのだけれど、本書は死を実存の問題としてではなく現象として客観的に批評する内容だったので俺が期待したものとはちょっと違っていた。

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死ぬ瞬間：
密かに訪れる
恐怖の報酬
常に見逃される
眠りと死
死は好奇心を刺激
血を吸うカメラ
すでにその瞬間を体験している
永遠：
むしろ気味が悪い
一直線の永遠
不老不死
絶対零度のような永遠
輪廻転生
見知らぬ世界：
死後の世界ー３つに分類
通俗的死後の世界
現世と微妙に異なるあの世
創造の及ばない世界
取り返しがつかない：
不可逆性
ミイラの妻を１０年間抱き続けた男
100ワニ現象
死体：
土葬・火葬
死者に対する真摯な向き合い方
死体の圧倒的実存感
死と悪趣味：
防衛機制・躁的防衛
可笑しくなる追悼

概要:

本書「死の瞬間 人はなぜ好奇心を抱くのか」（朝日新書975）は、人が死という不可避な現象に対して抱く根源的な好奇心を中心に、文学作品、映画、科学的知見、宗教観、民俗学など多岐にわたる視点から考察を深める評論です。著者は、死にまつわる様々な側面—死の瞬間、永遠、死後の世界、遺体、葬送儀礼など—を探求することで、普段意識されることの少ない死への興味や感情を浮き彫りにします。ユーモラスな筆致や豊富な引用を交えながら、タブー視されがちな死を身近なものとして捉え直し、読者に新たな視点を提供します。

主要テーマ:

死への好奇心: 本書の中心となるテーマです。著者は、死の不可解さや未知性、そしてそれが私たち自身の存在に関わる根源的な問題であることから、人が死に対して強い好奇心を抱くのは自然なことだと論じます。「死の不可解さに対する探求心や恐れが紡ぎ出した珍妙な想像であり、馬鹿げてはいてもどこか切実な好奇心を刺激してくる。」（p. 98）と述べ、様々な文学作品や事例を通して、この好奇心の具体的な表れを探ります。
死の瞬間: 死がどのように訪れるのか、その瞬間には何が起こるのかという問いに迫ります。映画の臨終シーンの類型（p. 16）から、病床での静かな死（p. 17）、事故による即死、さらには首を切断された後の意識の可能性（p. 40-43）まで、多様な状況における「死の瞬間」を描写し、それが私たちの想像力を刺激する要因であることを示唆します。
永遠: 生の終わりとしての死に対し、永遠という概念が持つ魅力と不気味さを考察します。「『永遠』は気味が悪い」（第二章タイトル, p. 63）と指摘し、宗教的な永遠の楽園や不老不死への願望（p. 79-85）が、同時に単調さや退屈、そして生の実感の喪失といった負の側面を孕んでいる可能性を示唆します。ゾラン・ジヴコヴィッチの短編「死」（p. 132-134）を引用し、「もっともすばらしい日」の永遠の繰り返しがもたらすであろう記憶のリセットや喜びの単調化への警鐘を鳴らします。
死後の世界: 宗教や文化によって多様に描かれる死後の世界を探求します。仏教的な浄土（p. 158-163）やキリスト教的な天国（p. 166-170）のイメージを紹介しつつ、それらが必ずしも人々の願望と合致しない場合や、現世の延長のような死後の世界という考え方（p. 108-110, 172-173）も提示します。映画『パレード』（p. 175-177）のような現世と死後の世界の中間���階という設定も紹介し、死後の世界の捉え方の多様性を示唆します。
遺体の存在: 死によって残された遺体の持つ異質なリアリティに着目します。「死体は『ニセモノ』じみてくる」（p. 184）という感覚と、「死体の圧倒的な実在感」（p. 193）という相反する印象を提示し、遺体が私たちに突きつける死の現実と、それを受け入れようとする心理との葛藤を描きます。宮本堅二郎が10年間ミイラ化した妻を抱き続けた事例（p. 150-154）を通して、死者への執着や向き合い方の多様性を考察します。
葬送儀礼と悪趣味: 葬儀や弔いの儀式が持つ意味合いを考察するとともに、死に対するタブー意識が時に「悪趣味」として現れる現象に注目します。死を直視することへの抵抗や、悲しみを紛らわせるためのユーモア（p. 202-204）の役割に言及しつつ、エド・ゲイン事件（p. 220-221）のような猟奇的な事例を通して、死と悪趣味の境界線を探ります。著者は、「滑稽さ」の効果（p. 202）や「躁的防衛」（p. 218, 223）といった心理機制にも触れながら、死に対する多様な感情や反応を分析します。
重要なアイデア・事実:

鉄腕アトムにおける不可逆性: 「幽霊製造機の巻」（p. 140-145）におけるプラチナの破壊シーンを引用し、一度失われたものは二度と元に戻らないという死の不可逆性を子供の頃に強烈に意識した経験を語ります。「あれよあれよという間に砂粒のようなパウダーになって、床にさらさらと落ちていく。その呆気なさ喪失感が、幼い私を戦慄させた。」（p. 143）
ギロチンによる死の瞬間: ギロチン処刑における斬首後の意識の可能性に関する歴史的な報告（ポール・ボリュー博士の報告, p. 41-42）を紹介し、視覚や聴覚が一時的に残るかもしれないという事実に、死の瞬間の捉え方の曖昧さを示唆します。「すべては二十五秒から三十秒の出来事だった。」（p. 42）
臨死体験の画一性: 臨死体験で語られる光景が、文化や個人差を超えて類似している可能性に言及しつつも、「（ホンモノの）死後の世界は得体が知れなくなってくる。」（p. 156）と述べ、安易な死後の世界のイメージに警鐘を鳴らします。
土葬への違和感: 1986年という時代において、地方都市の市長の葬儀が土葬で行われた事例（p. 174）を紹介し、現代における土葬の特異性と、死者に対する向き合い方の多様性を示唆します。
「100日後に死ぬワニ」現象: 人気漫画の結末におけるワニの突然の死（交通事故）とその後の周囲の反応を描写し、身近な存在の死がもたらす喪失感と、それを消費する社会のあり方を考察します。「予想はしていたが、無神経さにうろたえる。」（p. 181）という著者の言葉は、この作品に対する複雑な感情を表しています。
火葬場の煙の色: 小野小町の歌を引用し、古来は遺体を焼く煙が緑色に見えた可能性を示唆しつつ、現代の火葬場では煙が見えないことに触れ、技術の進歩による死のイメージの変化を示唆します。「白を通り越して透明な煙になってしまっていたのかもしれない。」（p. 238）
結論:

本書は、死という普遍的なテーマを多角的な視点から掘り下げ、読者の知的好奇心を刺激する一冊です。死の瞬間から永遠、死後の世界、遺体の存在、そして死とユーモアの関係まで、普段目を背けがちな事柄に向き合うことで、生の意味や価値を改��て考えるきっかけを与えてくれます。豊富な引用や具体的な事例を交えながら、重くなりがちなテーマを軽妙な筆致で語る著者の手腕が光ります。

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「死」に対して、崇高な気持ちと悪趣味な情動で揺れ動く、人のふしぎな心の有りように迫る。
映画、小説、漫画などさまざまな作品紹介を交え、カルチャーガイドとしても楽しめる。装画はヒグチユウコ氏による描き下ろし！＜目次＞
第１章 死ぬ瞬間 第２章 「永遠」は気味が悪い
第３章 見知らぬ世界 第４章 取り返しがつかない
第５章 死体の件 第６章 死と悪趣味

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前に読んだ『恐怖の正体』と何か似てるなーと思ったら同じ筆者だった。
「死」に関するものを描いた文学や映画をピックアップして、それについての考察が行われている。
可もなく不可もなくと言った感じ。

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作者は精神科医だが、本書は医学的に死を学べる内容ではなく、どちらかというと随筆に近い。
いろいろな映画や小説を引用しつつ、これまで死がどのように捉えられてきたかが語られる。
生と死の境に思いを馳せながら楽しむ本と言える。

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タイトルの回答があるとは言えないような気もするのだけれど、それでも読んだのだからやっぱり吸引力のあるテーマ。願わくば花の下にて春死なん春の弥生の望月のもと、がひょいひょいと浮かぶ時期に読めてよかった。

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何とも凄い本ではある。
どうしても忌避してしまう「死」に正面から向き合っている。
死のオムニバス、アラカルト、、いろんな話題。
何か全体を通してメッセージがある、というものではない。
副題の「人はなぜ（死に）好奇心を抱くのか」を、いろんな角度から探ってる。
答えはないのだと思う。いろんな本から引用している、鉄腕アトムも。
火の鳥じゃない。
まあ気軽に？死について考える新書になっている。

私にとっての最初の死は小２の時の地方に住む祖父だったが
あまりピンと来なかった。
ピンと来たのはその翌年の、ペットのセキセイインコの死。大泣きした。
なんといっても３０歳で父に急死されたのはショックだった。
結婚し独立していたつもりだったが、生まれたときから存在していた父親が
いなくなる喪失感というのは、なんともいえないものだった。
悲しいのは当然だが、庇護がなくなる不安のようなものがあった。
しかもバブルピークの相続で苦労し、、、人生が大きく変わった。目覚めた。

なんてことを思い出しながら読んだ一冊

第１章 死ぬ瞬間
第２章 「永遠」は気味が悪い
第３章 見知らぬ世界
第４章 取り返しがつかない
第５章 死体の件
第６章 死と悪趣味

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著者の死への好奇心が詰まった一冊。とはいえ、軽薄なものではなく、死にたいする尊厳と畏怖が随所に感じられた。

第2章については共感した。永遠など、まったく不要。どんなに幸せな状態でもそれは刹那的なものだから価値があり、永遠に続くとなれば必ず虚しさに襲われると思う。それが辛い状況ならなおさら永遠などごめん被りたい。

私自身の病気、母の死を迎えて、死が非常に身近なものになった。それでも、だからなにができるわけでもない。自分が死んでも毎日は続いていく。死ぬ前になにがしたいとか、名を残したいなどもない。ただそこに自分がその瞬間にあっただけ。病気と共に不安と安堵を繰り返しながら、ただひたすらにその瞬間に向かっていくだけである。

死んだ後、体を検体に出すなどは意味のあることだと思うので、自分もそういうのがいいなぁと思う。